第7章

彼女の言葉は率直だった。

川崎美咲のような遠回しな言い方ではない。

川崎美咲は急に気まずそうな表情を浮かべた。

「私はそういう意味じゃなくて…」

高橋桜は彼女が何を言いたいのか気にもとめなかった。

帰る前に、渡辺健太は薬を処方し、川崎美咲に言った。

「君の友達は薬を飲みたがらないようだけど、あの状態なら飲めるなら飲んだ方がいい。漢方薬だから体に害はないよ。数回分だけ飲めばいい」

「はい」川崎美咲は漢方薬を受け取った。

三人は診療所を出て、佐藤家へ戻った。

佐藤家

車のドアが開くと、高橋桜は具合の悪さをこらえながら外に出た。今は二階に戻って、早く眠りにつきたいだけだった。

しかし降りる際に足がもつれ、前につんのめりそうになったところを、車から降りてきた佐藤和也がとっさに腕を伸ばして支えた。

彼は眉をひそめて彼女を見つめた。

「こんな状態なのに、まだ薬も注射も拒むなんて、本当に君は…」

後から降りてきた川崎美咲は二人の手が触れ合うのを見て、急いで近づき高橋桜を支えた。

「和也、私が面倒を見るわ」

川崎美咲は高橋桜を支えて家に入り、家政婦たちを見かけると挨拶をした。

家政婦たちは川崎美咲を見て、揃って驚いた表情を浮かべた。

川崎美咲が彼女を二階に送り届けると、彼女たちはすぐに集まってひそひそ話し始めた。

「今のは川崎お嬢さんじゃなかった?」

「川崎お嬢さんって?」

この屋敷にある程度長く勤めている家政婦は皆、川崎美咲のことを知っていたが、新しく来た者たちは知らなかった。

「川崎美咲よ。ご主人が好きな人。あなた、それも知らないの?」

「ご主人が好きな人?」その人は目を丸くした。

「でも、ご主人はもう結婚されてるじゃない」

「名門の結婚なんて、ほとんどがビジネスの提携よ。本当の感情なんてあるわけないでしょ」

話している人は佐藤家に長く勤めていることを鼻にかけ、得意げに話した。

「新入りだから分からないけど、私は当時見ていたのよ。この川崎美咲はご主人が好きな人であるだけでなく、ご主人の命の恩人でもあるの。ただ、彼女は以前留学で海外に行っていて、ご主人はずっと彼女を待っていたのよ」

「じゃあどうしてご主人は奥様と結婚したんですか?」

「それは佐藤家のお婆様が病気になって、ご主人が家庭を持つところを見たいと思ったからでしょ。ご主人は仕方なく、誰かに代わりをしてもらおうとしたの。ちょうどそのとき高橋家が破産して…わかる?」

そう言うと、彼女は眉を上げた。

「これは名門の秘密よ、知ってる人はほとんどいないから、外では言わないでね」

「えっ、ご主人と奥様は仲がいいと思ってたのに、偽りだったなんて」

「本物なわけないじゃない。演技よ、演技。あなたったら…」

一同がまだ何か言おうとしたとき、大きな咳払いが響いた。

皆が振り返ると、執事がいつの間にか来ていて、険しい表情で彼女たちを見ていた。

「仕事はもういらないのかな?」

皆はばらばらと散っていった。

彼らが去った後、執事はそこに立ち、すでに五十を過ぎた彼は、眉も白くなりかけていた。彼は眉をひそめた。

あの川崎美咲が戻ってきたのか…

だから昨夜の奥様の様子がおかしいと感じたのだ。

川崎美咲は高橋桜を部屋まで案内した。

「ありがとう」

「ううん」川崎美咲は微笑んだ。

「早く休んでね」

「うん」高橋桜は靴を脱いでベッドに横になった。そのとき、後ろからゆっくりと入ってきた佐藤和也が見えた。彼は無関心そうに彼女を一瞥し、最後に視線を川崎美咲に向けた。

「送っていこうか?」

ここは結局佐藤家だし、彼女がここに長居する理由もない。川崎美咲はうなずいた。

「ええ」

出る前に、川崎美咲はもう一度部屋を見回し、外のコートラックにかかっている男性用のオーダーメイドスーツに気づいた。

あのスタイルは、佐藤和也しか着ないものだった。

川崎美咲の顔色が少し青ざめ、唇を噛みながら何も言わずに佐藤和也の後について出ていった。

二人が去った後、高橋桜は目を開けた。彼女は真っ白な天井を見つめ、途方に暮れていた。

子供のこと…どうすればいいの?

妊娠は他のことと違う。

例えば、彼を好きという気持ちなら、自分の感情をうまく隠せる。一年、二年、十年でも問題ない。

でも妊娠は?

月数が進めばお腹は大きくなる。隠し通せるはずがない。

考えれば考えるほど、高橋桜は頭がくらくらして、やがて長い昏睡状態に陥った。

夢の中で

高橋桜は自分の襟が誰かに解かれるのを感じ、続いて何か冷たいものが彼女の体に覆いかぶさった。彼女の体は熱く、ただ心地よく感じ、ため息をつきながら、無意識に手足を使って来た人の腕にしがみついた。

続いて、彼女は低いうめき声と荒い息遣いを聞いた。彼女の後ろ首が少し乱暴でありながらも優しく掴まれ、唇が湿ったもので塞がれた。

何かが彼女の口腔に侵入してきた。

高橋桜は眉をひそめ、その異物を噛んだ。血の味が口の中に広がると同時に、男の痛みに息を呑む音が聞こえた。

その後、彼女は押しのけられ、頬を強く摘まれた。かすかに相手が言うのが聞こえた:本当に甘やかしすぎだな、噛みつくとはな?

痛みに彼女は不満そうに相手の手を押しのけ、また深い眠りに落ちた。

彼女が目を覚ましたとき、すでに夜になっていた。

家政婦が側で見守っており、彼女が目覚めるのを見て喜んで前に進み出た。

「奥様、お目覚めになりましたか」

家政婦は前に出て彼女を起こし、手を彼女の額に当てた。

「ああ良かった、奥様、やっと熱が下がりましたね」

高橋桜は目の前の家政婦を見て、断片的な記憶を思い出し、尋ねた。

「ずっとあなたが看病してくれたの?」

家政婦は目を輝かせてうなずいた。

それを聞いて、高橋桜の目から期待の光が消えた。

彼女は目を伏せた。

あの断片的な記憶から、ずっと看病してくれていたのは佐藤和也だと思っていた。

違ったのね。

高橋桜が考え込んでいると、家政婦は薬の入った椀を持ってきた。

「奥様、ちょうど目が覚めたところで、この薬もまだ温かいうちに、お飲みください」

濃厚で鼻を刺す漢方薬の匂いが立ち込め、高橋桜は眉をひそめ、思わず避けた。

「奥様、熱いうちにどうぞ。すぐに冷めてしまいますよ」

彼女が後ずさりするのを見て、家政婦は薬の椀を彼女の方に近づけた。

高橋桜は後ろに下がり、顔をそむけた。

「…そこに置いておいて。後で飲むから」

「でも…」

「少しお腹が空いたの。下に行って何か食べるものを持ってきてくれない?安心して、食べ物を持ってきてくれたら、この薬を飲むから」

彼女はずっと眠っていたので、今は本当に空腹だった。

家政婦は少し考えてから、うなずいた。

「わかりました。では奥様のために食べ物を取ってきますね。奥様、薬を飲むのを忘れないでくださいね」

「うん…」

やっと家政婦が行ってくれて、高橋桜は布団をめくって起き上がり、黒い漢方薬の椀を手に取り、トイレに行って流してしまった。

薬が便器に流され、跡形もなくなるのを見た。

これで、もう薬を飲むように言われることはないだろう。

高橋桜はようやく安堵のため息をついた。

彼女は椀を持って立ち上がり、振り返ったとき、佐藤和也がいつの間にか来ていて、洗面所のドアに寄りかかり、鋭い目で彼女を探るように見ていることに気づいた。

「何をしている?」

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