第5章
午後二時きっかり。貴志の法律事務所の前で、私の手のひらはすでにじっとりと汗ばんでいた。
ガラス張りのビルの三十二階からは、P市の中心街が一望できる。貴志のオフィスは、まるで小説『高慢と偏見』の世界から抜け出してきたかのような内装だった。重厚な木製の本棚、革張りのソファ、そして巨大なマホガニーのデスク。いかにも成功した弁護士といった風情だ。
「時間は正確か。嫌いじゃない」
貴志はオフィスチェアから立ち上がった。そのスーツ姿は相変わらず非の打ち所がない。
だが、彼の表情はいつもより冷ややかだった。
「お座りください、白石さん。それとも、何とお呼びすればよろしいでしょうか?」
...
ログインして続きを読む
チャプター
1. 第1章
2. 第2章
3. 第3章
4. 第4章
5. 第5章
6. 第6章
7. 第7章
縮小
拡大
