第102章

笠木絵里奈の顔は青ざめたり赤くなったりと、目まぐるしく変わった。前回が人生で最も恥ずかしい瞬間だと思っていたが、今こそがその時だったのだ。

目に涙を浮かべた彼女は、森野昇もその場にいることに気づくと、自らの尊厳が地に踏みにじられたように感じ、耐えきれずに泣きながら走り去ってしまった。

岩崎奈緒は表情をほとんど変えず、彼女が走り去るのを見ると、そのまま視線を落として閉じるボタンを押した。

これほど赫々たる名声を持つ青年才俊たちと同じエレベーターに乗り合わせても、彼女は実に落ち着き払っている。今回、森野昇との交渉に臨むにあたっても、準備は万端だった。

森野昇は彼女のすぐそばに立ち、その口...

ログインして続きを読む