第107章

どういうわけか、森野昇は心に面白くないものを感じ、わざと優しい口調を使った。

「ペニー、怖い思いをしたんじゃないか。ここから出たら、病院に連れて行ってあげようか?」

「顔色が優れないようだ。薬でも買ってこようか?」

森野昇の気遣いは至れり尽くせりといったもので、岩崎奈緒としても無下にその好意を突っぱねるわけにはいかなかった。

なにしろ、話はすでについている。森野昇は今後自分を目の敵にすることはないし、その上、秘密も守ってくれるというのだ。

「森野社長、私は大丈夫です」

藤原光司から発せられる気配はますます冷たくなっていくが、何も言わなかった。

エレベーターの扉が開くと、岩崎奈緒...

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