第108章

岩崎陽菜はさらに緊張を募らせた。

ずっと前、一度だけ藤原光司を見かけたことがある。その時、彼は人垣の中に立っていた。すっと伸びた眉の下で目を細め、高い鼻筋をして、隣の誰かと何かを話していた。身体にぴったりと合ったスーツは、少しの過不足もなく、ほとんど妖しいとさえ言える、それでいて高嶺の花のような雰囲気を醸し出していた。

そして今、ついに彼の目の前に初めて立った彼女は、緊張で全身が震えていた。

長年の片想い。三年よりも、もっとずっと長い。

経済新聞で彼の名前を知った。藤原光司。

その後、彼はひょんなことから彼女の義兄となったが、問題ない。いずれ離婚するのだから。

藤原光司は彼女を一...

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