第126章

藤原光司は眉をひそめた。この女の口は、本当にハマグリよりも堅いと、改めて思う。

「うん」

岩崎奈緒はほっと息をついた。ことさら為難いことをしなかったので、感動を覚えた。

「はい、必ず時間通りに伺います」

鎮痛スプレーを吹きかけると、足首の痛みはいくらか和らいだ。彼女はうつむき、救急箱を片付けて玄関の棚に戻した。

ドアを閉める際、彼女は一言付け加えた。

「では藤原社長、おやすみなさい」

藤原光司の表情は、途端に一層冷たくなった。何とも言えない感覚だった。

息が詰まるような、不快な感じ。

彼はネクタイを緩めた。そうすれば、その得体の知れない感情が少しは晴れるかのように。

だが...

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