第173章

車のクラクションが二度鳴り、ヘッドライトが点灯した。

井上進は車内に戻ると、何かを思い出したように窓を下ろした。

「それから、岩崎社長はもうお爺様に電話をなさらないでください。お爺様は体調が優れないので、万が一のことがあれば、岩崎家も責任を取れませんよ」

先ほどのが牽制だったとすれば、今のは警告だ。岩崎家の人は手を伸ばしすぎるな、という。

岩崎雄大は怒りで頭が真っ白になり、指先が震え始めた。

その傍らで、岩崎陽菜は興奮した面持ちで一歩前に出た。

「藤原さん」

彼女は車の窓越しに、うっとりと中の人影を見つめる。

藤原光司がこれほどまでに面子を潰しているというのに、岩崎陽菜にはそ...

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