第177章

藤原光司が病院へ向かっている道中、林田景から電話がかかってきた。

林田景はひとしきり話した後、最後に一言付け加えた。

「兄さん、あの子は一応君の絵を描いてくれたんだから」

藤原光司は車窓から外の景色に目をやる。すでに夜が近づき、街灯が灯り始めていた。

この雰囲気は、あの絵とよく似ている。

否定できないことだが、彼女の描いたあの絵は、実に見事な出来栄えだった。

やがて車は、林田景から教えられた住所のそばに停車した。このマンションは相場も安くない。この前、引っ越しの準備をしていると言っていたが、ここへ越してきたのか。

岩崎奈緒は藤原光司を待たせるわけにはいかないと、十分前から階下で...

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