第205章

車はゆっくりと走り出した。

井上進は車内に座っており、藤原光司の感情の変化を最も間近で感じられる人物だった。

先ほどまでの骨身に凍みるような雰囲気は、すでに消え去っている。

彼はほっと息をついた。以前にも、このように命知らずでしつこく言い寄ってくる女がいたが、すぐにK市から姿を消したものだ。

今朝の女も大胆だった。何度も何度も近寄ってきたのだから。

幸い、今は社長の機嫌が少し良くなった。でなければ、藤原グループの上層部がまた災難に見舞われるところだった。

一方、岩崎奈緒はその場に立ち尽くし、藤原光司の車が遠ざかってから、ようやくしゃがみ込んでユキと視線を合わせた。

ユキを長年飼...

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