第208章

岩崎奈緒が山暁に戻ると、外に一台の車が停まっているのが見えた。藤原光司が来ていると察し、思わず足が止まる。

彼女はほとんど無意識に後ずさり、慌てて山暁を離れた。

しかし今の彼女は気分が良くない。新しく買った家も問題だらけで、先ほどは岩崎家で嫌な思いをし、山暁に戻れば名目上の主である藤原光司に鉢合わせ、こそこそと隠れなければならない。

目頭が熱くなり、彼女は山暁の屋敷の周りで適当なベンチを見つけて腰を下ろした。

夜風は少し肌寒く、肩をすくめると、胸が詰まるように痛んだ。

バラガーデンに戻ろうかと考え始めた矢先、目の前に一足の黒い革靴が止まった。

一瞬呆然とし、顔を上げると、藤原光司...

ログインして続きを読む