第209章

岩崎奈緒の落ち着いた表情が、途端にこわばった。躊躇いがちに答える。

「ええ、二度ほど……」

こんなレストランに、彼女の主人は二度しか連れてきたことがないというのか。

藤原光司の眉間の皺がさらに深くなる。しかし、他人の家の事情である以上、口を挟むことはなかった。

彼の指先がテーブルの上に置かれると、傍らの赤い薔薇と互いを引き立て合い、普段より一層美しく見えた。

岩崎奈緒はすぐに岩崎家の憂鬱なことなど忘れ、彼の指先に視線を落とした。

指のすぐ隣には、燃えるような赤い薔薇が数輪。白と赤が見事に調和している。

この構図はいい。後で帰ったら一枚描こう。描き終えたら一眠りして、目が覚めたら...

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