第210章

しかし現実は、岩崎奈緒が抱き合ってキスをしている二人を一瞥し、気まずそうに顔を背けただけだった。

「申し訳ありません、藤原社長。お目汚しを」

こんな公のレストランで、人目も憚らずキスをするなんて。まさにあの二人さえ気まずくなければ、気まずくなるのは周りの人間だ。

岩崎奈緒はその方面では開放的ではなく、藤原光司と一夜を共にした以外、男性との親密な接触は滅多になかった。そのため、今は気まずさで針のむしろに座る気分になるほどだった。

その女は松岡和人の膝の上に座り、彼の体をすっぽりと覆い隠していた。岩崎奈緒の角度からは、女の背中と、彼女の腰に回された男の両手、そして男の上半身が半分ほど見え...

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