第211章

彼女はその辺の適当な場所に腰を下ろし、こめかみを揉んだ。

やはりバラガーデンに戻ろうか。どうせ明日はZ郡へ行くのだし、今夜どこで寝ようと変わりはない。わざわざ山暁へ帰って藤原光司から隠れる必要もないだろう。

岩崎奈緒はタクシーを拾い、バラガーデンに戻ると、ゆったりと湯船に浸かった。さて休もうかと思った矢先、外からドアを激しく叩く音が聞こえてきた。

彼女は眉をひそめ、ドアの前まで行くと、そこに立っていたのは以前林田南と揉めていた女だった。

女は今日、化粧をしていなかったが、太く黒い眉とアイラインはおそらくアートメイクだろう、すっぴんでも異様な雰囲気を醸し出している。

「この泥棒猫!ド...

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