第252章

岩崎奈緒は階上で何が起きているのか知る由もなく、十一時まで廊下で静かに待ち続けていた。ようやく立ち上がると、足が少し痺れているのを感じた。

看護師に一声かけてから、そこを後にした。疲れ切った体を引きずり、車を運転してホテルへと戻る。

最上階のエレベーターから出たところ、隣のエレベーターも開き、中から藤原光司が現れた。

藤原光司はスーツ姿で、手元でカフスボタンを気怠げに弄っている。

背後に井上進の姿はなく、一人で帰ってきたようだ。

岩崎奈緒はしょぼしょぼする目を瞬かせ、声をかけた。

「藤原社長」

二人の背後でエレベーターの扉が同時に閉まり、ゆっくりと下降していく。

このフロアが...

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