第272章

萩原初はちょうどドアの前に立っていたため、その一場面は見ていなかった。たとえ見ていたとしても、藤原光司がわざとやったとは思わなかっただろう。

何しろ、藤原光司はあれほど冷淡な性格で、女性に対する態度も常にそっけないものだったから、そんな幼稚な手口で誰かを口説こうとするはずがない。

今、オフィスから出て、背後でドアが閉まると、萩原初は岩崎奈緒の顔を見つめた。

認めざるを得ないが、この女は確かに美しい。初めて会ったときなど、息をのむほどだった。

彩花が彼女に気をつけるよう言ったのも無理はない。もしこんな女が本気で誘惑してきたら、藤原光司がその気にならなくても、一度くらい寝てみたいという気...

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