第276章

岩崎奈緒は、自分の今の表情に全く気づいていなかった。デザインを疑われたことで、憤りのあまり目元を微かに赤くしていたのだ。

デザイナーにとって、これは面と向かって罵られるよりも深刻な侮辱だった。

その顔から笑顔は消え、琉璃のような瞳が二度、瞬きをする。

「めっそうもございません。ただ、萩原さんが社長にお電話されているのを耳にしまして、今夜デートに行かれるのだと知っただけです」

藤原光司はただ彼女を見つめ、ややあってから、ゆっくりと喉仏を動かした。

「結婚しているのにずっとホテル暮らしとは、ご家族は何も言わないのか?」

突然の話題転換に、岩崎奈緒は少し意表を突かれたが、素直に答えた。...

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