第279章

岩崎奈緒は全身をこわばらせ、認めざるを得なかった。

「温水さん」

そう呼ぶと、慌てて彼の脇をすり抜けて外へ向かった。

温水聡は彼女の身体に残る痕跡にちらりと目をやり、さらに彼女が手にしている御景テラスの設計図、わずかに赤みを帯びた目元、震える指先を見て、どう見てもいじめられた後のように感じた。

「ペニー」

彼は呼びかけた。

岩崎奈緒の足が止まった。彼の揶揄うような声が聞こえてきた。

「光司はそんなに乱暴なのか?」

岩崎奈緒の肩がびくりと震え、聞こえないふりをして俯き、足早に立ち去った。

温水聡は静かに笑みを浮かべ、エレベーターの閉ボタンを押した。

最上階まで着くと、彼は藤...

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