第280章

温水聡は書類を受け取ると、部屋の奥に向かって声をかけた。

「じゃあ、俺はこれで。安心しろ、今夜のことは誰にも言わない。萩原初にもな」

玄関のドアが閉まり、室内は静寂に包まれた。

藤原光司は主寝室の窓辺に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。

目に映るのは、街中の煌めく明かり。この窓から見える景色は、最も壮観なものだ。

しかし彼は一瞥しただけで、すぐに視線を指先に落とした。

柔らかなぬくもりと香りが、まだそこにはっきりと残っているかのようだ。毛穴に染み込み、四肢の隅々まで侵していく。

温水聡の言う通りだった。

確かに、まだ昂ったままだ。

なぜこうも昂ぶるのか、自分でも分からない。

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