第283章

藤原光司は応えず、ただ俯いてゆっくりとカフスボタンを整えた。

銀青色のカフスボタンはひときわ目を引く。それは萩原初から贈られたものだった。

岩崎奈緒が階段の足音を聞いて振り返ると、萩原初が傍らに現れ、優しい口調で言った。

「光司、一緒に上に行きましょう。私、本当に心配で」

そう言ってから、萩原初はようやく岩崎奈緒の存在に気づき、その眼差しが途端に鋭くなった。

「どうしてあなたがここにいるの?」

ちょうどその時、ユキの担当医がやって来た。

「ペニーさん、上の階へどうぞ。手術は四十分ほどかかる見込みです」

岩崎奈緒はほっと息をつき、息苦しかった空間が急に広くなったように感じた。傍...

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