第63章

岩崎奈緒は傘を差して歩き出したが、少し進んだだけで、ズボンの裾は大きく濡れてしまった。

一台の車が彼女の傍らでゆっくりと停車し、クラクションを二回鳴らした。

彼女はまた森野昇だと思い、瞳の奥には既に一筋の苛立ちが浮かんでいた。

車の窓が少し開き、中から聞こえてきたのは藤原美咲の声だった。

「早く乗って。今から車を取りに行くなんて、すごく渋滞してるわよ。外は人だらけだし」

岩崎奈緒は自分が駐車した場所を見上げると、確かに人が多く、雨はますます強くなっていた。これ以上遠慮せず、一言お礼を言ってドアを開け、車内に座り込んだ。

雨水と湿気は外側に遮断され、車内は驚くほど静かだった。

岩...

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