第79章

藤原光司はその声を聞くと、眉間にしわを寄せ、書類の山から顔を上げた。案の定、車の外で笑みを浮かべる岩崎奈緒の姿が見えた。

z郡の景色は美しく、彼女が上半分の顔を覗かせると、その瞳には外の華やかな陽光が映り込んでいるようだった。

彼は書類を握る手に思わず力が入った。

どうして行く先々で彼女に会うのだろう?

岩崎奈緒は彼の一瞬の違和感に気づかず、再びノックして、「藤原社長、よろしいですか?」と声をかけた。

藤原光司は目を伏せ、平坦な口調で「乗りなさい」と言った。

岩崎奈緒はドアを開け、車に乗り込んだ。

外の日差しは強烈で、ちょうど正午だった。ドアを開けた瞬間、熱波と共に彼女の身に纏...

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