第90章

そこまで考えた岩崎奈緒は、やはり電話を一本かけることにした。

「藤原社長、イメージパースが確定しましたら、私は続けて施工図の作成に入ります。本当に、もう誰にも見せなくてよろしいのでしょうか。林田社長から伺いましたが、この家は社長の想い人のために設計されたものだと。彼女のご意見も伺ってみてはいかがですか」

藤原光司は二秒ほど沈黙し、それから重々しい声で言った。「その必要はない」

岩崎奈緒は少々呆れ、藤原光司は本当に世間で噂されているように、長年萩原初を待っていたのだろうかと疑わずにはいられなかった。

しかし、二人が関係を持ったあの夜、彼が萩原初の名前を呼んでいたことを思い出すと、世間の...

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