第92章

岩崎雄大の今回の救命処置は難航を極めたようで、五時半になってようやくストレッチャーに乗せられ、医師に押されて出てきた。

岩崎奈緒は酸素マスクをつけた父を見つめ、胸にわずかな痛みを感じた。「先生、父の容体はかなり悪いのでしょうか」

岩崎雄大はここ数年、会社の仕事に追われ、健康診断を受けたことがなかった。どこか痛むことがあっても、鎮痛剤を飲んでごまかすだけだった。

岩崎奈緒は、母がまだ生きていた頃から、お父さんがずっとそうだったことを思い出した。あの頃、母はいつも彼に言っていた。お金は稼ぐだけ稼げばいい、家族でZ郡に庭付きの家を買って、花や野菜を育てて、心穏やかに暮らしましょう、と。

し...

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