第96章

「山暁の方に電話を?」

「ああ、かけろ」

彼の声は淡々としていたが、これから岩崎奈緒と会うことに対して、言いようのない苛立ちを感じていた。

彼は時間に厳しい人間だが、相手は立て続けに二度も約束をすっぽかしたのだ。

まったく、教養のかけらもない。

井上進は携帯を取り出し、山暁の方へ電話をかけた。

石川麻衣は電話を受けて、飛び上がるほど驚いた。藤原さんが今夜いらっしゃるですって?!

電話を切ると、彼女は慌ててユキを奥の部屋に隠させ、さらに部屋の隅々まで消毒させた。犬の毛一本残っていないことを確認して、ようやく一息ついた。

使用人たちの手際は良く、それに普段から毎日消毒しているため...

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