第10章 抱いてほしい

小島麻央ははっとした。

思わず足を止め、声がした方を振り返ると、案の定、今泉拓真が車椅子を押して、エレベーターの方へ向かっているのが見えた。

車椅子に座った千田愛由美は、彼を振り返り、情熱的な眼差しを向けている。その姿はまるで恋する乙女のようで、彼への愛情が言葉以上に伝わってきた。

真夏だというのに、小島麻央はまるで氷室にいるかのように、資料を持つ手が止まらずに震える。

帝都は本当にこんなにも狭いのだろうか。なぜ逃げ出したくて、忘れようとすればするほど、彼らは目の前に現れ、何度も胸を突き刺してくるのだろう。

小島麻央はぐっと目を閉じ、胸の刺すような痛みを抑え込むと、視線...

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