第3章

 共に暮らした五年。別荘の至る所に私の痕跡があった。

 永遠に去ると決めた以上、それらを消し去らなければならない。

 荷物を整理していると、一つのファイルが出てきた。

 中には、この五年間の私の受賞歴が丁寧にファイリングされている。

 その一枚一枚に、藤堂延の直筆メモが添えられていた。

 一番上の付箋にはこうある。

【あいつには才能がある。俺が思う以上に、眩しい】

 その下にも、細かい記録が残されていた。

【今日は朝四時まで修正に付き合った。真剣な横顔が綺麗だ。精をつけるために一番いい鰻を手配した】

【生理痛で苦しんでいる。初めて黒糖生姜茶を作ったが、火傷した。でもあいつが飲んで笑ってくれたから、まあいい】

 これは何?

 私を犬扱いして調教しながら、一方でこんな細部に溺れていたというの?

 最後のページには、去年のフェリーの半券が挟まっていた。

 見慣れた彼の文字が、少し乱れている。

【もしやり直せるなら、チケットを失くしたふりをして、あいつを港の寒風の中に立たせるような真似はしない……だが、これは知世との約束だ。これで七十二回目】

 隅の方に、紙が破れそうなほど強い筆圧で書かれた三文字があった。

【ごめん。】

 もしかしたら、藤堂延にも一瞬の迷いや心からの情動があったのかもしれない。けれどその程度の想いは、白鳥知世とのゲームの前では無価値に等しい。

 私は無言でファイルを閉じ、ゴミ箱へ放り込んだ。

 藤堂延が帰宅したのは深夜二時だった。

 彼は私が眠っていると思い込み、慎重に布団をめくって背後から抱きついてきた。

「……寝たか?」

 私は目を閉じたまま動かない。

 彼は私の首筋に顔を埋め、独り言のように呟いた。

「寧音……俺、少し後悔してるんだ」

 何を?

 調教百回をもっと早く終わらせなかったこと?

 私が反応しないでいると、やがて彼の寝息が聞こえてきた。

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