第五章

 車輪が地面を削る轟音は耳障りだったが、それでも背後から聞こえてくる、今にも転びそうな足音ははっきりと分かった。

「待て! 止まれ、止めるんだ!」

 神谷治世は医者を振り払い、狂ったようにこちらへ駆け寄ってくる。

 だが、彼の手がストレッチャーに触れようとした、まさにその刹那——

「治世兄さん……っ」

 車椅子に乗せられた平塚桂衣が姿を現し、胸元を強く押さえて蒼白な顔を歪めた。

「痛い……胸が、すごく痛いの……」

 神谷治世の足音が、不自然にピタリと止まる。

 二秒間、空気が凍りついた。

 死者はすでに死んでいるが、生者はまだ生きている——そんな理性が彼を縛り付ける。

「...

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