第33章

今日、彼女はシャネル風の洗練されたツイードスーツに身を包み、社長室へと向かっていた。

ちょうど中から漆野哲也が出てくるのを見て、彼女は片眉を上げて微笑み、声を潜めて尋ねた。

「漆野さん、響さんは今なんて? 誰かを見張れって言ってたようだけど」

漆野哲也は慌てて答えた。

「月見さん、急ぎの用事がありますので、これで」

月見光の顔から笑みが消える。漆野哲也は誰よりも空気を読む男だ。その彼が口を閉ざすということは、裏に何かあるに違いない。

彼女は胸の内の苛立ちを押し殺し、漆野哲也の背中に作り笑いを向けた。

「あらそう」

そして、ドアを開けて社長室へと足を踏み入れた。

鴉崎響は書類...

ログインして続きを読む