第58章

琥珀千紗は立ち上がり、掃き出し窓へと歩み寄った。眼下の庭園では、賓客たちがグラスを交わし、談笑している。

胸の内に、じりじりとした焦燥が渦巻く。

鴉崎家の跡取り。これ以上、先延ばしにはできない。

ふと、彼女の視線が噴水のそばにある芝生の一角で止まった。

そこには、甥の孫にあたる鴉崎曇空が、一人の少女と何やら話し込んでいる。

曇空に対して、琥珀千紗はこれといった情愛を持ち合わせていなかった。

所詮は鴉崎響の子ではない。表面上の体裁さえ整っていれば、それでいいのだ。

千紗の視線は曇空を通り過ぎ、その傍らにいる少女へと落ちた。

その少女が、くるりとこちらを向く。

瞬間、琥珀千紗の...

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