第79章

レストランには、澱んだように重苦しい空気が漂っていた。

「そんなに急いで帰る必要があるのか? まさか……八朔綾人から連絡でもあったか?」

鴉崎響が眉を片方上げ、探るように尋ねた。

月見華は、スマホを握る手をわずかに止めた。

「鴉崎社長、少し干渉が過ぎるんじゃありませんか? 私が帰るかどうか、誰と連絡を取るか、いちいちあなたに報告する義務はありません」

痛いところを突かれたのか、鴉崎響の顔色が沈む。

その時、月見華の手の中でスマホの画面が明滅し、短い振動が走った。

画面に表示された名前は、あろうことか『八朔綾人』だった。

月見華の心臓が早鐘を打つ。

反射的にスマホを取ろうとし...

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