第37章

佐藤絵里は足を止めたが、振り向かなかった「伊藤さんがお話があるなら、ここでどうぞ」

「二人きりで話がしたい」

隣の営業マンは泣きそうな顔になった「こ、これは……」

佐藤絵里は心の中で謝った。彼女の本意ではなかったが、他に方法がなかった。

彼女も賭けていたのだ。伊藤朔也の心の中に、まだ彼女への情が少しでも残っているかどうかを。

もし彼が本当に冷酷なら、病院まで来てあのお金を渡すことなどしなかっただろう。

気持ちを整え、佐藤絵里はようやく体を向けた「あら、伊藤さんが私をお探しだったんですね。申し訳ありません、お客様のご要望には従うしかありませんので」

伊藤朔也の視線は、終始彼女を捉...

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