第54章

「ああ」坂田和也が答えた「目立たないよ」

「でも一目見ただけで何が起きたか分かるじゃない……」

つまり、佐藤絵里は食事の時から今までずっと、唇の端にあるこの薄い痕跡を付けたままだったのだ。

坂田美咲がずっと彼女に目配せしていたのも無理はない。彼女は坂田和也と坂田家でキスを我慢できなかったと思っていたが、実は……

佐藤絵里は顔を覆い、もう坂田家の人々に会わせる顔がないと感じた。

彼女は怒っていた。

このことがあって、道中ずっと佐藤絵里は坂田和也と口をきかず、窓の外を見つめていた。

坂田和也も黙って車を運転し、眉間にかすかな心配の色が見えるが、何を考えているのか分からず、佐藤絵里を...

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