第58章

佐藤絵里のすべての意識が、一瞬にして消え去り、目を閉じ、何も分からなくなった。

その瞬間、彼女は後悔していた。エレベーターをもう少し待っていたら、どうだったのだろう?

なぜほとんど誰も通らないこの階段を使ったのだろう!

もう遅い、間に合わない。

坂田グループ、社長室。

広報部の部長が尋ねた「坂田社長、ご結婚の知らせを公表なさりたいということで...よろしいでしょうか?」

「ああ」

「では、よろしければ社長と奥様のツーショット写真をご提供いただけますか?」

その一言で坂田和也は言葉に詰まった。

彼と佐藤絵里には...ツーショット写真がなかった。結婚証明書の写真だけで、さすがに...

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