第111章 助かった

一方、その頃——。

人里離れた廃屋の中で、田中春奈は徐々に意識を取り戻しつつあった。頭には麻袋が被せられ、視界は完全に閉ざされている。聞こえるのは、すぐ側で時折響く物音だけだ。

「んぐっ……!」

彼女は必死に声を絞り出し、身をよじってロープを解こうと足掻く。

「田中さん、無駄な抵抗はやめなさい。今日、ここから生きて帰れる見込みはないんだから」

聞き覚えのない男の声。だが、春奈はどこか懐かしいような、記憶の片隅に引っかかるものを感じた。誰だろうか。

「まったく、あの卑しい父親と同じだ。余計なことばかりしやがって」

春奈は必死に記憶をたぐる。この声、どこかで聞いたことがある。

「...

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