第112章 江口家と縁を切りたい

その時、大野博の指がキーボードを叩くのを止めた。彼は顔を上げ、短く告げる。

「完了しました」

江口祥生が色めき立つ。その隙きを、田中春奈は見逃さなかった。首筋に押し当てられていた切っ先がわずかに緩んだ瞬間——彼女は深く息を吸い込み、猛然と江口祥生の手首を掴んだ。関節を逆に極めるように上へと跳ね上げ、刃の軌道を首から逸らす。

素早く身を屈め、江口祥生の腕の下をくぐり抜ける。だが、切っ先が彼女の耳の縁を掠めた。

同時に、皮膚が裂ける鋭い痛みが走る。

彼女が歯を食いしばると同時、江口匠海が疾風のごとく手を伸ばし、彼女をその懐へと抱き寄せた。

「正気か!?」

低い唸り声が耳元で響く。田...

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