第117章 彼が心配

「何か用?」彼女は折り返した。

「ああ」男の声は明らかにしゃがれていた。

「春奈、祖父に確認した。話は江口祥生が言っていたようなことじゃない。確かに祖父は市長に電話をした。だが、あの年は株価が大暴落していて、市長は祖父のような人間に市場を救ってほしかったんだ。運悪くあの日、俺が誘拐された。祖父は気が気じゃなくて、相場どころじゃなかった。市長の方が祖父に、俺を必ず救い出すと保証したんだ……わかってる、今更こんなことを言っても仕方がないことは」江口匠海の声には、微かな震えが混じっていた。

「だが、これだけは言わせてくれ。祖父は誰も脅していない。もし誰かが株式市場を盾に脅したというなら、その...

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