第118章 和田七瀬を疑う

田中春奈は、何かを振り払うように視線を逸らした。

そうだ。彼女は、この男が放つ抗いがたい色香——その致死的な引力に必死で抗っているのだ。

帰宅するなり、田中春奈は江口匠海のために白湯を用意しようと動き回っていた。だが、準備も終わらぬうちに、彼女は男の膝の上へと引き倒されていた。

文句の一つも言ってやろうとしたが、男のわずかに吊り上がった切れ長の瞳を見て、言葉を飲み込んだ。その瞳は清冽で、笑っているようでもあり、そうでないようでもあった。

田中春奈は身を起こし、改めて茶を淹れ直す。

「これ以上ふざけるなら、出て行ってもらうわよ」

「何を怖がっている?」

背後から、男が涼しげな声で...

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