第14章 彼女に引っかかれた

医師が田中春奈を救急処置室に運び込み、江口匠海は入口で待っていた。

大野博がそっとウェットティッシュを差し出した。「社長、首から血が。お拭きください」

江口匠海はティッシュを受け取って軽く拭うと、淡い血の跡が目に映った。

彼の心に名状しがたい感情が湧き上がる。この女はいつも、いとも容易く彼の心を揺さぶるのだ。

十数分後、医師が足早に出てきた。江口匠海を見ると、落ち着いた声で告げる。「江口社長、患者さんは眠られました。検査結果はまだ出ていませんが、二時間ほどかかる見込みです。現在、二日間の入院観察が必要となります」

「ん」

「彼女の入院手続きをしてこい」江口匠海は大野博を冷ややかに...

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