第140章 買えない

田中由衣は両腕を胸の前できつく抱きしめ、小刻みに震えていた。寒気が骨の髄まで染み込んでくるようだ。身に纏った高価な衣服も、今の彼女には隙間風を防ぐ役になど立ちやしない。

黒田若菜が寝息を立て始めると、田中由衣は忍び足でベランダへと出た。震える指で松本悟の番号をプッシュする。

「もしもし」

松本悟の声には、他人のような余所余所しさと冷淡さが滲んでいた。

「私よ、田中由衣……」

由衣は唇を噛み締め、蚊の鳴くような声で名乗った。

「悟……」

「田中さん、もう連絡してこないでくれ。俺には新しい彼女ができたんだ」

「悟、そんな仕打ちってないじゃない。私たち、あんなに何度も寝た仲でしょう...

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