第19章 故意に気絶する

電話は下村月からだった。彼女が田中由衣に報告した内容は、由衣の顔色を一瞬で変えさせるものだった。——田中春奈が江口家に向かっているらしい、と。由衣の顔は恐ろしいほどに曇り、彼女はギリッと歯を食いしばった。その瞳の奥には強烈な憎悪が閃く。田中春奈の思い通りになど、絶対にさせてやるものか!

月曜の早朝。オフィスに足を踏み入れたばかりの田中春奈は、手に持っていたバッグを置く間もなく、突然、江口匠海からの電話を受けた。

『約束したことは忘れるなよ』

「今からですか? 早すぎませんか!」

彼女は言い訳を探して時間を稼ごうとしたが、江口匠海は容赦なくその言葉を遮った。

『俺の忍耐力を試すような...

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