第20章 一歩先を行く

江口匠海は彼女のベッドのそばに座り、田中由衣を見つめながら、冷ややかに言った。「まずは病院で数日、様子を見ろ」

田中由衣は弱々しくベッドに横たわり、江口匠海に尋ねた。「匠海、どうして春奈と一緒にいるの?お仕事?」その声には、探るような好奇心が滲んでいた。

江口匠海は首を振り、「ああ、今日は祖父に会う予定だったんだ」と告げた。

それを聞いた田中由衣の顔に驚きの表情が浮かび、問い詰める。「どうして彼女を連れて行くの?」

江口匠海はしばし沈黙し、ゆっくりと口を開いた。「実は、祖父が彼女に会いたがっていてな」

彼はこの女にすべてを話すつもりはなかった。結局のところ、彼女はまだ彼の何者でもな...

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