第23章 泊まりたくて帰りたくない

彼は気だるげに椅子の背にもたれ、手の中のワイングラスを静かに揺らしながら、その優しい眼差しを向かいの小さな子供と田中春奈に向けていた。自分とこの子の間には、どうにも言葉にできない縁のようなものがあるように、彼はいつも感じていた。その親近感は、思わず近付きたいと思わせるほどだった。

一方、小さな子供もまた、江口匠海がまるで山の峰のように、この上ない安心感と頼りがいを感じさせてくれると思っていた。

夕食が終わり、江口匠海は自ら母子をマンションの入口まで送り届けた。

田中春奈は息子の手を引いて車を降り、江口匠海に感謝を述べた。

しかし、小さな子供は不意に顔を上げ、笑いながら言った。「ママ、...

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