第37章 噂を広める者

「ずいぶん前の、古い友人です」彼女は言葉を濁した。

「彼に何か頼み事でも?」江口匠海は、彼女が話を逸らしたことを見抜いた。

田中春奈はこれ以上嘘を重ねることができず、曖昧に「ええ」とだけ答えた。

江口匠海の顔つきが、途端に険しくなる。鋭い眼光で田中春奈を射抜き、言った。「田中春奈、よく覚えておけ。今後何かあったら、そんな得体の知れない連中を頼るより、真っ先に俺のところへ来い。少なくとも、俺がお前に無茶な真似はしないと保証してやる」

彼にいいようにされたことは一度や二度じゃないのに、と田中春奈は内心で毒づく。しかし、表面上は「はい、分かりました」と気のない返事をするだけだった。

江口...

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