第57章 挑発しに来た

つい先ほど田中春奈の前で芝居を打ち、自分こそが江口匠海の最愛の人間だと信じ込ませたばかりだというのに、まさかこんなにも早く、田中春奈から手痛い一撃を食らうことになるとは思ってもみなかった。

もはや田中由衣は、じっと座ってなどいられなかった。

今すぐ実験室に駆けつけて自慢してやりたい。今日、江口匠海の方からディナーに誘ってきたのだと、田中春奈に知らしめてやりたい。これは彼女にとって、またとない絶好の機会なのだ。

彼女は念入りに化粧を施し、わざわざ午後四時ごろに研究所へやって来た。

そしてわざとオフィスエリアで足を止め、ぐるりとあたりを見回す。

案の定、他の人々の注意を引くことに成功し...

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