第70章 実は彼が大富豪だった

田中春奈は仕方なくハンドルのボタンを押して通話に出た。「もしもし、江口社長、何か御用ですか?」

「お前の車はどこだ?」電話の向こうから、江口匠海の低く沈んだ声が聞こえてくる。

「仕事は終わりました。息子を迎えに来ていますので。江口社長、もし他に用事がないのでしたら……」

田中春奈の言葉は、三島拓海の切羽詰まった叫び声によって遮られた。「田中さん、危ない!」

もう少しで追突するところだった。彼女は慌てて急ブレーキを踏み、まだ動揺が収まらないまま胸を撫で下ろす。やはり、運転中に気を散らしてはいけない。

「車に乗っている男は誰だ?」江口匠海の声が、突如として冷たく鋭くなった。

田中春奈...

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