第85章 驚愕の発想

背後に立つ男は、薄い唇をわずかに釣り上げた。まるで、生涯忘れ得ぬ光景を目にしたかのように。ほんの数十秒の出来事だったが、彼はその一瞬一瞬を味わうように、何一つ見逃そうとはしなかった。

田中春奈は彼の前に立ち尽くし、あまりの恥ずかしさに穴があったら入りたい、そのまま逃げ出したいという衝動に駆られていた。

夕食の間、田中春奈の頬は火照りっぱなしだった。江口匠海と視線が合うたび、全身に電流が走るような感覚に襲われるのだ。

食後、江口匠海は自ら進んで子供を散歩に連れ出すと言い出した。

田中春奈は家に残り、キッチンの片付けを済ませると、ソファに身を預けてスマートフォンを眺めた。リビングの掃き出...

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