第86章 転校する

佐藤優奈はその背中に向かって舌を出し、書類を抱えると何食わぬ顔で田中春奈のオフィスへと入っていった。

一方、そんなこととは露知らず、田中春奈はタクシーで江口グループ本社の最上階を訪れていた。今の彼女は以前とは違う。江口匠海のオフィスへ直接出入りできる立場にあるのだ。

ドアを押し開けて中に入り、対面の席に着くと、彼女は目の前の男を見てわずかに眉を顰めた。

「江口社長、朝早くから呼び出して、何のご用でしょうか」

江口匠海は机の上で両手を組み、深遠な眼差しを向けてくる。

「克哉の転校の件だ。君の同意書にサインが必要になる」

その言葉に、田中春奈は驚きのあまり目を丸くした。まさか、本気で...

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