第94章 歓迎会の競艶

不意に、ドアをノックする音が響いた。

桜井美咲がドアを開けて入ってくる。その手には宝飾店の紙袋が提げられていた。

室内に田中春奈の姿があるのを認めると、彼女の瞳が一瞬、明らかに動揺に揺らいだ。

江口匠海が目配せをすると、桜井美咲は言われた通りに宝飾店の袋を置く。

田中春奈の視線は、吸い寄せられるようにその袋に釘付けになった。

ペアブレスレットか……。この男、やはり和田七瀬を口説くのに相当な手間をかけているらしい。

「特に用件がないようでしたら、仕事に戻ります」

田中春奈の声は、どこか他人行儀な響きを帯びていた。

「誰が戻っていいと言った?」

江口匠海は、田中春奈の不承不承な...

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