第32章:恵み

部屋がぐるぐると回っているような気がした。ベータのクイントンが、私に刻印(マーキング)した? あの男とはほとんど関わりなんてなかったのに。エイドリアンは私がパックのどの男とも接触しないよう、常に目を光らせていたからだ。確かにクイントンはいつものいじめ役の一人で、お仕置きやそういった類いのことを手伝ってはいたけれど、私に刻印する機会を与えられるなんてありえるだろうか? 何かがおかしい……。でも、あの夜のことはよく覚えていない。すべてがぼんやりとしている。彼だった可能性は十分にあるけれど、そうだと言い切れる自信はなかった。

部屋のドアがゆっくりと開いた。キンズリーが入ってきて、そのすぐ後ろにベー...

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