第1章
「DNA鑑定、99.9%一致! 彼女こそが、三好家で18年間行方不明だったご令嬢だ!」
プロデューサーの声が『スターライト・シャイン』の楽屋に響き渡った。自作曲の『孤児』を歌い終えたばかりの私は、あっという間に人だかりに囲まれる。
「間違いないのか? あの三好家の子供だって? なんてこった、これは爆発的なニュースになるぞ!」
プロデューサーが電話に向かって怒鳴っている。
ステージの上では、審査員がまだ私を褒め称えていた。
「これはただの歌じゃない。魂の訴えだ……君は専門的な訓練を受けたことがあるのかね?」
「いいえ。ただ、心にあることを歌にしただけです」
しかし、もはや私の歌声に関心を持つ者はいなかった。誰もがそのDNA鑑定報告書に釘付けになっている。
18年間の孤児院での生活が、一夜にして名門の令嬢に?
私は冷たく笑った。この世界に奇跡は尽きない。ただ、その奇跡を受け止める勇気が足りないだけだ。
三時間後、三好家の屋敷。
リビングでは撮影チームが、派手なドレスを纏った少女の表紙撮影をしていた。彼女こそが三好雪晴。私の居場所を18年間も占領してきた「妹」だ。
「雪晴のこのショット、最高に美しいわ! 明日の表紙はきっとバズるわね!」
中年女性が誇らしげに顔を綻ばせる。
「私の娘は才能がある。生まれながらのスターの器だ」
中年男性が頷きながら相槌を打った。
孤児院の質素な服を着たまま玄関に立つ私に、スタッフはてっきりアシスタントと勘違いしたらしい。
「そこのお嬢さん、悪いけど小道具を運ぶの手伝ってくれるかな……」
「あら? もしかして、その……行方不明だったお姉様?」
三好雪晴がようやく私に気づき、その目に計算高い色がちらりと過った。
親子の情? そんなものは微塵も存在しない。
私はまるで、突然現れた家具のようだった。邪魔ではあるが、どう処分していいか分からない、そんな存在。
夕食時、豪華な食卓に並べられたカトラリーは三つだけだった。
「雪晴の新しいドラマ、前売りで一千万を突破したぞ。今回は間違いなく視聴率トップを獲れるだろう」
父親の三好正輝が興奮気味に話す。
私は会話に割って入ろうとした。
「私……」
「明日は三つも仕事が入っているのよ。雪晴、ちゃんと休みなさいね」母親の幸子が私の言葉を遮った。
「お母様、部外者の前で、仕事の話はやめてくださらない?」
三好雪晴が私をちらりと見る。
部外者? 彼女は私を部外者だと言った。
怒りが瞬く間に燃え上がる。その瞬間、私は奇妙なものを感じ取った——彼らの心の声が「聴こえる」!
三好正輝の心の中。
『こいつが雪晴のリソースを食い潰すことにならないか?』
幸子の思考。
『孤児院育ちなんて……雪晴に悪影響がなければいいけど……』
三好雪晴の心はさらに悪辣だった。
『あの雑種、本当に戻ってきやがった……予定を早めないと……』
私は箸を置き、冷静にこの三人を見つめた。なるほど。これが、私が18年間も焦がれてきた温かい家族というわけか。
夜、三好雪晴がこっそりと私の客室に入ってきた。
「この家に戻ってくればおこぼれに与れるとでも思った? 甘いわね」
彼女は美しいマムシが毒牙を剥くように言った。
「私はただ、家族が欲しかっただけ……」
「家族? あなたにその資格があるとでも? 孤児院で育った雑種が、永遠に私の地位を脅かすことなんてできないのよ」
彼女の目から悪意が噴き出し、私の怒りは頂点に達した。
あの奇妙な感覚が再び起動する。今度はさらに鮮明に——彼女の心の中にある計画の全貌が見える。濡れ衣、陥穽、そして私を破滅させることまでも!
「何を企んでいるのかしら?」
私は彼女の目を真っ直ぐに見据えた。
三好雪晴の顔色がさっと青ざめる。
「どうして……私が考えていることが分かるの?」
私は立ち上がった。未だかつてない力が覚醒していく。
「あなたの心の中にある悪意が感じられる。歪んだ蛆虫みたいにね」
「あ……あなた、この化け物!」
彼女はくるりと背を向けて部屋から逃げ出した。
私は一人そこに立ち、たった今起きたことのすべてを反芻する。
相手の感情を感知する力、読心術、それとも何か別のもの? どうでもいい。
重要なのは、この所謂「新しい家族」の本性を見抜いたということだ。
家族? 笑わせる。ただのクズの集まりじゃないか。
三好雪晴、汚い手で来るというのなら。その悪意、そっくりそのままあなたたちに返してあげる。
